
私の漢方薬との出会いは、学生時代です。大学生の頃、定期試験の勉強中に風邪をひくこともありました。それまで、風邪をひいたら、市販の薬か、それでも治らなければ、病院で、総合感冒薬や咳止め、痰切り、鼻水止めなどを処方してもらっていましたが、どの薬もすぐに効いたという実感はなく、眠くなったりするなど、試験勉強中には、風邪をひいてもなるべく薬は飲まないようにしていました。
大学4年生の頃だったと思いますが、当時、大学に米国アリゾナ大学の統合医療プログラムをアジアで初めて修了された山本竜隆先生がいらして、統合医療の魅力について、山本先生の医局を訪れて興味深いお話をよく聴いていました。
自分が風邪をひいて山本先生にお会いしたときに、「漢方を処方するので、外来に受診してみては」と勧められました。そこで処方されたのが、「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」という漢方薬でした。
処方された麻黄附子細辛湯を、白湯に溶かすか、白湯と一緒に飲むと、のどの痛みや鼻水、怠さなど、早いときには飲んで15分以内には効いてくるのを感じました。
全く眠くもならず、風邪の諸症状がまとめて劇的に改善されたのは、今まで体験したことのない、驚きでした。
風邪はなるべく薬を飲まないで治すものと思っていたのが、喉が痛くなってきて風邪があやしいなと思ったら、すぐに飲めば、即効で症状が改善されるような薬と出会うことができたのです。
麻黄附子細辛湯は、その名の通り、麻黄(まおう)・附子(ぶし)・細辛(さいしん)の3種類の生薬からできている薬です。麻黄、附子、細辛、全ての生薬が身体を温めます。
漢方のバイブル的な古典『傷寒論(しょうかんろん)』に紹介されていて、「元来冷えのある体質で、風邪の症状に加えて、四肢が冷えて怠さなどがある」ときに飲むと書かれています。
このような症状があれば、風邪の初期に飲んでもよいですし、葛根湯など、風邪の初期に飲む薬の効果がいまいちだったときに、麻黄附子細辛湯を飲んで、効くこともあります。
この麻黄附子細辛湯との運命的な出会い(笑)が、自分が漢方を勉強するようになったきっかけです。風邪に出される漢方薬は他にもいくつかあり、それからいろいろ試して飲んでみましたが、やはり一番劇的に効くのが、この麻黄附子細辛湯で、今でも常に鞄の中に持ち歩いています。
現在は、この麻黄附子細辛湯を、診察をして適した患者さんには勧めています。漢方薬には、個人個人の体質により、効き目も個人差がありますが、麻黄附子細辛湯がぴったり合った場合は、私が上記のように驚くくらいに風邪がよくなる経験を、患者さんも体験して、「風邪のときには麻黄附子細辛湯をいつも飲んでいます」という患者さんや同僚の職員さんもいらっしゃいます。
「風邪は万病のもと」と言われ、誰しもが経験するものかと思います。風邪を治す漢方薬の中で、自分に合ったものを見つける関心を持っていただければ幸いです。
- 樫尾 明彦AKIHIKO KASHIO
- 和田堀診療所 所長。聖マリアンナ医科大学卒業。昭和大学大学院にて博士号取得。2010~2013年、医療福祉生協連・家庭医療学開発センター(CFMD:Centre for Family Medicine Development)にて家庭医療について研鑽を深める。2014年より現職。日本プライマリ・ケア連合学会認定 家庭医療専門医。漢方診療も行う。共著『スーパー★ジェネラリストに必要なモダン・カンポウ』(新興医学出版社)、監修『治療 特別編集 先生,漢方を鍼灸を試してみたいんですけど……』(南山堂)ほか。
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